管理会社の役割って?
突然の家宅捜索立ち合い
これは、僕の失敗のエピソードです。
もう10年以上も前の話。
8月の暑い夏の日、管理事務所に警察から電話がかかってきました。
「ハイツ新屋敷(仮称)の管理はお宅で間違いないですか?」
「はい、そうですが。。。何かあったのですか?」
「401号室に阿部伸介さん(仮称)という方が契約していると思いますが、この部屋を家宅捜索をすることになりました。」
「えぇー!何が事件ですか?」
「電話ではお伝えは出来ないので、現地に鍵をもって来てもらって、立会いをお願いしたいのですが。。。」
「わっ、分かりました。」
と、警察と日程の調整を行い、後日、僕はドキドキしながらマンションに向かいました。
(何があったんだろう。。まさか、中で人が死んでたりしないよな。。)
めちゃくちゃ、不安に駆られながら現地へ行くと、私服の刑事さん含め5人ほど警察の方が待機しています。
(おいおい、もう少し目立たないようにできないのかな?入居者さんが見たら不安がるでしょ!)
と、心の中では思いつつも、やはり401号室の中が気になります。
401号室の契約者を調べたら、当時契約者は20代の男性で、鹿児島市にある塗装会社への就職を機に昨年の秋に福岡から引っ越してきた方。
保証会社の審査もすんなり通ったのですが、今思えば、勤務先は郊外なのに中心部の繁華街に近い新屋敷が居宅になっているのが気になりました。
「お疲れ様です。何があったのか教えてもらえますか。」
部屋の状態が心配過ぎて、あいさつもそぞろに僕は警察へ即効質問してしまいました。
「実は、詐欺容疑がかかっています。よく言うオレオレ詐欺ですよ。」
どうやら、401号室がそのアジトになっているようなのです。
殺人犯とか暴力団とか想像していたので、詐欺と聞いて一瞬ほっとしてしまいましたが、
どちらにしても管理物件にとっては悪い事実です。
オレオレ詐欺のアジトは?
警察がインターホンを鳴らして、ドアを乱暴にバンバン叩いて呼びかけます。
誰も出てきません。電気メーターを見ても、微量にしか動いていないので、不在なのは明らかでした。
僕は、警察の指示通り、会社から持ってきた管理キーで401号室の鍵を開けました。
ドアを開けると、モワーっとした熱い空気と、男性住まいの汗臭さの染みついたような独特な臭いがしました。
案の定、中には誰もいません。
部屋は大きく荒れた様子もなく、家財道具もほとんどなし。
一式の布団とテレビがポツンあるだけでした。
ただ、異常な数の携帯電話(プリペイド携帯)とリストのような紙が、床に散乱しています。
他にはコンビニの弁当やら空き缶などが転がっていました。
警察が室内をいろいろ調べた後、僕は警察に言われるまま携帯電話やリストを指差しして、それを警察がパシャパシャ写真におさめていきました。
証拠写真の撮影協力なんてもちろん初めてでしたが、なんとも居心地の悪いワンショット撮影でした。
でも、写真を撮られている間、僕の頭の中は、(このあとこの部屋をどうやって明渡してもらうか?)ということばかり・・・
一通りの作業を終えた頃、「この後はどうなりますか?」と僕は率直に警察に聞いてみました。
すると「心配させてすみません。今日で証拠も押さえましたし、ある程度潜伏先もつかんでいますから。数日中には逮捕できると思いますから大丈夫ですよ。」との答えが。。。
当たり前ですが、警察の目的と僕の目的がそもそも違うので、会話がかみ合っていません(泣)。
「いやいや。そうじゃなくて、警察は逮捕できれば解決でしょうけど、僕はその後ここを契約解除して明渡してもらわないといけないんですよ。。。」
と思わず言ってしまいました。
「あーそいうことですね。まぁ、本人もここに戻ってくることはないでしょうし。逮捕できたら本人に伝えておきますよ。」
と警察はあっさり。
親御さんが連帯保証人になっていたので、明渡しの手続きはそちらに賭けるしかありません。
親御さんとの明け渡し交渉
親御さんのいる実家は福岡。遠方ですので、直接会いに行くわけにもいきません。電話だけの交渉になります。
家宅捜査の数日後、警察から無事、阿部さんを逮捕できたとの連絡がありました。
(さすがに早いな)と思いましたが、そんなことに感心している場合ではありません。親御さんへ連絡して、電話で明渡しの交渉をしなくてはいけません。
僕はゆっくりと受話器を取り、押し間違いがないよ1つ1つ丁寧にダイヤルを押しました。
「阿部様のお宅でしょうか?」
「そうですが、お宅はどちらさんですか?」
と、野太い50代くらいの男性の声です。連帯保証人のお父さん本人にコンタクトが取れました。
緊張で声がこわばります。
「伸介(仮称)さんの住んでいる鹿児島の賃貸マンションの管理会社の者です。突然のご連絡ですみません。」
と、あいさつをして、電話をしたいきさつを話そうとしました。
すると、お父さんのほうから
「管理会社さんですか?息子のことで、ほんとご迷惑をかけてすんません。
実は、来週鹿児島へ行こうと思うとったんです。
こっちから連絡せんといかんのに。電話もらってしまって・・」
幸いなことに、親御さんは僕からの電話の意図も全て分かっていました。
解約手続きと明け渡しも来週に全てさせて欲しいとのこと。
詳しく聞くと、警察から息子さんの逮捕の電話があった時に、管理会社が困っているから部屋の解約をするように言われていたようです。
噛み合っていなかった会話とは裏腹に、そんな粋な計らいをしてくれた警察に感謝したのでした。
「おいおい、全然失敗エピソードじゃないじゃないか!」って?
確かに、ここまでは上手くいった話ですよね。こからが失敗談です。
気づけていなかったもう一つの解約
お父さんとマンションで面談して、荷物も全て引き上げ、部屋の明渡しが無事に終わった後です。
ほっとした僕は、空になった401号室の鍵をかけました。
そして、隣りの402号室を通ったときにふと思い出だしたのです。
「そう言えば、隣の女性の入居者さん、先月くらいに退去したよな?けっこう長く住んでいてくれてたのに・・・」
どうしても気になった僕は、会社に帰ってその女性の入居者さんに電話してみました。
「差し支えなければ、退去した理由を教えてもらえませんか?」と・・・
答えは、嫌な予感的中だったのです。
401号室が引っ越してきてから、夜が騒がしくなり、廊下ですれ違うときにちょっと怖そうなお兄ちゃんたちが出入りするのが見えて、怖くなったとのこと。
正直に話してくださったその女性の入居者さんに、怖い思いをさせて大変申し訳なかった旨を伝え、後味の悪い電話を切りました。
『賃貸保証会社の保証審査が通りさえすれば入居はOK!』
賃貸保証契約が当たり前になった今、家賃滞納のリスクが賃貸保証会社のお陰で減ったのは事実。一方、こんな風に保証会社の審査が通りさえれば良いという空気も生まれつつあります。
当時の僕もそうでした。
保証会社の審査さえ通れば、滞納しても保証会社がやってくれる。それで空室がひとつでも埋まるのであれば、、、と。
この阿部さんをもっと、しっかり審査していたとしたら?・・・それでも、隣りの入居者さんが退去してしまうというリスクを免れられたかどうかは分かりません。
同じ結果だったかもしれません。
でも、優良な長期入居者さんが退去してしまったのは事実です。
本当にこの入居者さんには申し訳ないことをしてしまったと思っています。
賃貸管理会社は、空室を一日も早く埋めることは大切な仕事のひとつですが、一方で、管理物件の環境を良好に保ち、一日でも長く入居してもらう、という使命があります。
この事件以降、審査する際は、勤務地までの距離感、所得と家賃のバランスなど多角的に検討するようになり、違和感を感じる場合は、入居動機などをヒアリングして進めるようになりました。
おかげさまでその後は、かつての阿部さんのような逮捕者が出るといった経験はせずに済んでいます。
オーナーの為に入居促進をしながらも、審査は慎重に。。。
あの女性の入居者さんのような方を二度と出さないようにするためにも、このバランスを取ることがとっても大切です。
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