一人の車椅子の方との出会い・・
「僕らが住める部屋ってないんですかねぇ?」
「不動産屋さんって、どこから部屋作りに関わっているのですか?」
これは、車椅子での生活をする矢野さんが、部屋探しをお願いしいてたある不動産屋さんに、中々部屋が見つからない時に言った言葉。
不動産屋さんはこの質問を前に何も言えずに、とても悔しい思いをしたそうです。
この不動産屋さんは矢野さんの為に、一生懸命部屋探しをしていました。でも目の前には、色々な壁が立ちはだかっていました。
矢野さんの希望条件に該当しそうな物件があっても、
1.エレベーターがない
2.エレベーターがあってもエントランスに段差がある(スロープがない)
3.エレベーターがあって段差がなくても管理会社さんに断られる
4.管理会社さんがオーナーに相談してくれてもオーナーに断られる
矢野さんが部屋を内見する以前に、これだけの壁があったのです。
インターネットポータルサイト上の検索条件には、
□共用部段差なし
なんてチェック項目はありません。なので、段差がないかどうかは現地に行ってみないと分からないのです。実際に現地へ行って確認してやっと住める物件が見つかったとしても、今度は3か4で断られて、振り出しに戻るという繰り返しでした。
不動産屋さんは、この壁を目の当たりにして愕然となりました。
そしてやっと、これらの大きな壁を乗り越えて、実際に矢野さんが住むことができたとしても、
5.車椅子で生活するには室内に養生(キズがつなかいように保護)が必要
6.キズをつけないように、気をつけて生活することが必要
7.キズをつけず生活しやすいようにするには、カスタマイズが必要でお金がかかる
8.原状回復(元に戻す)のにもお金がかかる
こんな精神的・経済的不自由が続くことを不動産屋さんは矢野さんから教えてもらったのです。
世の中にないなら自分で・・・
「不動産のプロである自分が目の前の部屋探しで困っている人の力になれない」
と大変悔しい思いをしました。
そして、この不動産屋さんと矢野さんの出会いから過ぎること2年、1つの大きなチャレンジが今、着々と進んでいます。
「それなら自分が、障がい者さんが安心して暮らせるマンションを作ってしまおう」
と、この不動産屋さんは自らオーナーとなって、新築賃貸マンションを計画しました。そのマンションが鹿児島市鴨池2丁目に来年4月に誕生します。
車椅子の障がい者さんも安心して暮らせる新築賃貸マンション。民間の新築賃貸でこんな例は聞いたことがありません。
入居者さんを阻む壁を取り払いたい
そのオーナーは、鹿児島市下荒田で不動産業を営む『窪商事』さん。
上の資料は、窪さんが立ち上げた『車イスマンションプロジェクト』のプレゼン資料の一部。自らの体験と、実際に車椅子での生活をしている方に会って話を聞いて作り上げたものです。
このプレゼンテーションは、プロジェクトの忘年会を兼ねて行われました。
資料からも窪さんの「入居者さんを阻む壁を取り払いたい」という想いが伝わってきます。
僕も参加させていただきましたが、同じ想いを共有する人で集まったアットホームでとても楽しい宴となりました。
その模様はこちら
https://www.facebook.com/kuboyuusuke/posts/1737279962983859?notif_id=1513353858329542¬if_t=like_tagged&ref=notif
そして、この賃貸マンションは、障がい者の方だけでなく、健常者へも賃貸生活上の壁を取り払ってくれています。
□自分の好みにあった壁クロスにしたいけどできない
□壁に棚をつけたいけどできない
といったDIYやカスタマイズって原状回復しなきゃいけないから出来ないですよね?
「勝手にやってしまって、退去の時にどれだけ請求されるか分からないから怖くてできない。」
これが入居者さんの心の声ではないでしょうか?
新築賃貸でDIY・カスタマイズができる部屋
でも、このマンションなら、お部屋の壁のデザインは入居者さんの自由。
(※洋室の壁に限ります)
プレゼン資料にあるとおり、部屋の壁にDIY・カスタマイズができちゃうんです!
家具も何もない部屋に、カーテンを取り付け、収納家具を置いて、ラグを敷いて、ソファ&コーヒーテーブルを置いて、インテリアが完成!!
でも、何かしっくりこない…。
こんな経験はないですか?
もし、部屋の中で一番目に入る場所=壁に自由に手が加えられるとしたら?
壁にちょっとした手を加えることで、インテリアがグンとおしゃれになります!
これらの写真のように、
自分好みのインテリアにあった壁紙を貼って、、、
その壁にインテリアショップで見つけたオシャレな棚や絵ををつけてあげて、、、
そして、お気に入りの雑貨や写真・観葉植物をその棚に好きなだけ飾って、、、
『好きなものに囲まれて住める部屋』
『世界に1つだけの自分だけの空間』
これだけ好きに作り込んでも、それが退去の時に原状回復費用として請求されないとしたら・・ワクワクしませんか?
しかも、それが築年数の経った古いマンションではなくて、セキュリティーや最新設備の整った綺麗な新築マンションでできるとしたら。
これは、窪さんが『障がい者さんにとって住みやすい物件』を作ろうと思ったからこそできることです。
「新築でDIY?カスタマイズ?」
正直、普通の不動産投資では受け入れられる考え方ではないでしょう。
だって、入居者さんの原状回復費用を免除してオーナーが負担するのですから。
「傷をつけずに、できるだけ綺麗に使って欲しい。」というのが、賃貸オーナーの当たり前の心情です。
でも、僕はこの窪さんのチャレンジには、人口減少と供給過剰のギャップで空室率が悪化している賃貸市場の改善の糸口になれるチャンスがあるのでは?と思っています。
なぜなら、窪さんのこの「障がい者にとって住みやすい物件」には、しっかりとした理念と事業性が備わっているから。
価値観が多様化してモノがあふれた時代には、
「誰にでも合うもの」=「誰にも必要とされないもの」
となる危険性があるのではないでしょうか?
でも、こうやって「誰かにしか合わないもの」は、「誰かに必要とされるもの」となって、長く使い続け貰うことができるはずです。
このプロジェクトに関わって、僕ら健常者には当たり前の日常にも車椅子で生活する方にとっては、障壁が多いことを体験できました。
横断歩道を渡ること・ドアを開けること・トイレに入ること・料理をすること・タクシーに乗ること。そして、住める部屋を見つけること。
世の中にこの物件を知ってもらって、窪さんの考えや物件のコンセプトに共感し、そしてこの物件を必要としてくれる入居者さんが増えるように働きかけ、入居者さんが気持ちよくここで生活できるよう物件の価値を維持していくことが僕の仕事です。
矢野さんと窪さんが体験した悔しい思い、こんな思いをする車イス生活の方や不動産屋さんをこれから少しでも減らしていく。
今、プロジェクトの皆でこのマンションの名称を考えています。
どんな名称となるのかとても楽しみです。物件名称・間取り・家賃などが決まり次第、更新していきますので、あなたがこのプロジェクトに共感してくれたなら、またチェックして下さい。
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