せっかく入居申込をもらったのに・・・
せっかく入居申込をもらったのに、、、
「田中さん、ちょっと相談があるんですけど・・・」
小久保君が、神妙な顔をしてやってきました。
「どうしたの?」
「実は、日高さん(仮)っていうお客さんのことで・・・」
「Aアパートを案内したら、奥さんの実家にも近くて家賃も手ごろですごく気に入ってくれて、
申し込みたいといってるんですが。」
「良かったじゃない。Aアパートってどこの物件?」
「大手の〇〇不動産の管理物件です。」
「で、何の相談なの?」
「それが、ご主人が顔にタトゥー(刺青)をされているんです。」
「マジ?」
「はい。これって管理会社に言わないといけないんでしょうか?」
「ご主人は言葉も丁寧で凄くいい人で、仕事もちゃんとされているんです。」
「それに、赤ちゃんがいるんで、実家が近いから、奥さんの両親も「いい所が見つかって良かった」
って喜んでて・・・。」
「そっか・・・。」
「タトゥーのことは、日高さんに聞いてみた?」
「聞きました。日高さんは、「若気のいたりで(笑)」って言ってました。」
「小久保君は、日高さんの件をどうしたいと思っているの?」
「ご家族皆さん喜んでくれているので、進めたい気持ちもあるんですが、管理会社さんに
言うと断られそうで・・・悩んでいます。」
「自分のお客さんだったら、そう思ってしまう気持ちも分かるよ。」
告知義務とは?
仲介会社は取引上知ってしまった事実は告げる義務があります。
「でもね、例えば、もしそのAアパートが事故物件で、過去に自殺があった部屋だったとして、
小久保君がそのことを知っていたとしたら、日高さんにそのことを黙ってる?」
「それは、当然言うに決まってますよ。」
「だよね。小久保君も、告知義務があるっていうのは知ってるよね。物件にまつわる事故が
あったら、僕ら仲介業者は借主さんに言わないといけないよね?」
「日高さんがタトゥーをしている事実を管理会社に言ったら断られるかも?って、
小久保君だって心配になっているんでしょう。」
「不動産仲介は、貸主・借主双方が安全な取引をするために存在しているんだよ。
特に賃貸は、売買みたいに一回だけではなくて、貸主さんと借主さんとの継続取引だし、
しかもアパートは共同住宅だから、他の借主さんへの影響もある。」
「だから、仲介会社は、借主さん側について知ってしまった事実も、安全な取引の為には、
貸主さん側へ必ず言わないといけないよ。」
「入居してもらうかどうかの判断は、小久保君がするんじゃなくて貸主さんがするんだから。」
「日高さんには、『仲介会社としてタトゥーの事実を知ってしまったので、入居審査上報告する
義務があります』と、必ず言うんだよ。」
「誠実に、まじめに伝えれば、そのご主人なら理解してくれるはずだから。電話じゃなくて、
必ず会って話をしてね。」
「分かりました。」
後日、小久保君は日高さんに会って、事情をちゃんと説明しました。
日高さんは「ごまかさないでちゃんと言ってくれてありがとう。」と小久保君に感謝してくれたそうです。
残念ながら、今回のAアパートの入居審査は管理会社から断られてしまいましたが・・・。
不動産仲介会社の役割って?
インターネットで便利になって、ポータルサイトによって物件がパッケージ化されて、お客さんも
若手の仲介営業マンさえも、不動産仲介は不動産物件紹介業なんだという認識が広がり
つつあります。
でも、不動産仲介業=情報の紹介業ではありません。
売主・買主または、貸主・借主の双方が安全な取引をする為に、我々プロの存在価値があります。
仲介業は、物件の引渡しまでが仕事ですが、特に賃貸の場合、貸主さんと借主さんの関係は、
引渡しからが本当のスタートです。
お互いが「えー。こんなはずじゃなかったのに・・・。」と思ってしまうことがないようにする為に、
我々が存在するんだと思います。
不動産には、素人さんには分からない3つのものがあります。
〇目に見えないもの
〇気づかないもの
〇見ても分からないもの
例えば・・・賃貸で言うと、
借主さんの
「目に見えないもの」 物件で過去に自殺があったなど
「気づかないもの」 物件にシロアリの被害があるなど
「見ても分からないもの」 物件でに近くの川が氾濫して水害があったなど
貸主さんの
「目に見えないもの」 借主さんが過去に家賃を踏み倒していたなど
「気づかないもの」 借主さんがタトゥー(今回の件)をしていたなど
「見ても分からないもの」 借主さんが実は暴力団関係者だったなど
こんな風に、取引をする上で大切な情報を双方に誤解なく伝えて、安全な取引をしてもらう
ことが不動産仲介会社の役割だと思います。そうじゃないと、どんどんインターネットやAIに
職場を奪われていくことになりますよね?